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色の常識はアップデートされる:なぜピンクは「男の子」、青は「女の子」だったのか

2026.05.22

小話

色の常識はアップデートされる:なぜピンクは「男の子」、青は「女の子」だったのか

「女の子にはピンク、男の子にはブルー」
現代の私たちが当たり前のように受け入れているこの色の境界線。実はこれ、歴史を紐解くと、わずか100年ほど前までは「真逆」の常識だったことをご存知でしょうか?

ピンクが男の子、青が女の子の色だった歴史

18世紀:貴族階級の「権威」としてのピンク

当時は性別による色の区別よりも、「階級」による区別が優先されていました。

  • マダム・ド・ポンパドゥール(ルイ15世の愛妾): 彼女は「ポンパドゥール・ピンク」と呼ばれる独自のピンク色を愛用し、これを宮廷の流行色にしました。当時、ピンクは非常に高価な染料が必要な「贅沢な色」であり、男女問わず貴族の特権階級が身につける色でした。
  • 軍服の「赤」の派生: ヨーロッパの軍服(特にイギリスのレッドコート)は「赤」が主流でした。男児はそのミニチュア版として、赤を薄めた「ピンク」を着せられることが、勇ましさの象徴とされていたのです。

19世紀~20世紀初頭:宗教観による「青」

逆に、なぜ青が女の子だったのか? それはキリスト教の図像学(イコノグラフィー)に由来します。

  • 聖母マリアの「青」: 伝統的な絵画において、聖母マリアは常に「青いマント」を羽織って描かれます。そのため、青は「純潔」「謙虚」「慈愛」を象徴する色として、女の子に最もふさわしい色と考えられていました。

20世紀初頭:カタログが教える「ピンク=情熱」「青=繊細」

20世紀初頭のアメリカやヨーロッパの育児雑誌やカタログを見てみると、歴史的な認識がまだ根付いていることが分かります。例えば、1918年の当時の有力なトレード誌『Ladies' Home Journal』にはこう記されていました。

「一般的に受け入れられているルールでは、ピンクは男の子、ブルーは女の子のための色です。その理由は、ピンクはより決断力のある強烈な色(赤に近い色)なので男の子に適しており、ブルーはより繊細で控えめな色なので女の子に可愛らしく映るからです」

当時、情熱や権力を象徴する「赤」は男性の象徴でした。その「淡い色」であるピンクは、男児にふさわしい「力強さの芽生え」を意味する色として選ばれていたのです。

色の常識が逆転した出来事

ナチスによる「ピンク・トライアングル」

第二次世界大戦中、ナチス・ドイツは強制収容所の囚人を分類するために、衣服に色分けされた三角形のワッペン(識別標識)を縫い付けさせました。

  • 政治犯: 赤色
  • ユダヤ人: 黄色(ダビデの星)
  • エホバの証人: 紫色
  • 同性愛者の男性: ピンク色(ピンク・トライアングル)

当時、同性愛は犯罪とされており、ピンクを身につけさせることは「男性失格」という烙印を押し、辱めるための手段でした。この強烈な負のイメージが戦後の欧米、特にドイツやアメリカの男性心理に「ピンクを避ける」という拒絶反応を植え付けた、という説が有力です。

ピンクが女性の色になった出来事

戦後に現在のステレオタイプを決定づける大きな出来事が起こりました。

① 1953年:大統領夫人の「ファーストレディ・ピンク」

アイゼンハワー大統領の就任式で、妻のマミー・アイゼンハワーが、ラインストーンを散りばめた目が覚めるようなピンクのドレスを着用しました。 これが全米で大センセーションを巻き起こし、「ピンク=家庭を守る理想的な女性の色」というイメージが爆発的に普及しました。戦後、家庭に戻ることを推奨された女性たちのアイコンとなったのです。

② 1950年代:映画『パリの恋人』と「シンク・ピンク」

オードリー・ヘプバーン主演の映画『パリの恋人(Funny Face)』の中に、ファッション雑誌の編集長が**「Think Pink!(ピンクを考えなさい!)」**と歌い踊りながら、女性たちにピンクを強烈に勧めるシーンがあります。 こうしたハリウッド映画やファッション誌のメディア戦略により、「ピンク=流行に敏感な女性の色」という刷り込みが完成しました。

青が男性の色になった出来事

①デニム(ジーンズ)と労働のイメージ

20世紀に入り、アメリカでワークウェアとしての「ジーンズ(インディゴブルー)」が普及したことも決定打となりました。

  • カウボーイと労働者: 映画や広告を通じて、インディゴブルーは「荒野を駆けるカウボーイ」や「工場で働くタフな男」の色としてイメージが固定されました。
  • 戦後のカジュアル化: 第二次世界大戦後、子供服も大量生産されるようになり、男の子の服は「丈夫でタフな青(デニム)」、女の子の服は「華やかで装飾的なピンク」という二分化が、メーカー側のマーケティング戦略として加速しました。

②「マリアの青」からの脱却と「冷徹な知性」へ

かつて聖母マリアの象徴だった青は、近代化とともに「宗教的な慈愛」から「科学的・知的な冷静さ」へと意味を変えていきました。

  • スーツとビジネス: 男性がビジネスシーンで着用するダークスーツ(紺色)は、理性や信頼を象徴する「制服」となりました。この「大人の男=青」という図式が、そのまま子供の世界にも投影されたのです。

これら色の固定概念化は第二次世界大戦後のマーケティング戦略も大きく関わっています。大量生産・大量消費の時代になり、メーカー側が「性別によって色を固定」したほうが、兄弟・姉妹間でお下がりを使わずに済み、商品がより売れるという商業的な意図がありました。

デザインにおける固定概念の罠

これらの実例から分かるのは、「色の意味は、強力なインフルエンサーやメディア、そして時代の政治的背景によっていとも簡単に書き換えられる」という事実です。

「女性向けサイトだからピンク」「誠実さを出したいから青」 こうした色選びは、ユーザーの直感に訴える「情報のショートカット」として有効です。しかし、それが行き過ぎると、ターゲットを無意識に型にはめ、ブランドの可能性を狭めてしまうリスクも孕んでいます。かつてピンクが「強さ」の象徴だったように、色の持つ意味や価値観は、時代や文化、そして技術の進化によって常に塗り替えられていくものなのです。

だからSPDは「コンテクスト(文脈)」を大切にしています。

私たちSPDは、単なる「見た目の綺麗さ」や「業界の定説」だけでデザインを決めません。

その色が、そのターゲットに対して、「今の時代にどのような文脈で届くのか」を徹底的に考え抜きます。固定観念に縛られず、クライアント様が伝えたい本質的な価値を、最も純粋な形でお届けするために。

私たちは、常識を疑う勇気と、歴史から学ぶ謙虚さを持って、一つひとつのピクセル、一枚の紙に向き合い続けています。

株式会社SPDでは、Webサイト制作、紙媒体の広告、コーポレートカラーやロゴの作成などを行っています。色の設定において不安がある場合、まずはお気軽にご相談ください。

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